ホームレスに石を投げて流血させたYくんの顛末

こんにちは、スカラビジョンのデザイン担当のヤマシタです。

今日は僕の幼馴染の中でもかなり変わった人物のYくんについて書きたいと思います。

Yくんとの出会い

僕がYくんと初めて出会ったのは小学2年生の夏だった記憶があります。

当時、うだるような夏の日差しに炙られながら、夏休みのプールから帰る途中、小学校のすぐ横のレストランに人だかりが出てきていました。

当時はファミレスなんてない時代でした。

だからこその本場の味を追求した個人店ならではの料理に魅了された子供時代。

初めて食べたグラタンの衝撃はいまでも思い出せます。

そんなレストランの前での出来事。

大人たちは皆、頭上を見上げて何か言葉を発しています。

「やめろー!」

「あぶない!」

「降りなさい!」

僕が大人たちの視線の先に目をやると、そこには一人の子供が立っていました。

Yくんです。

今では週末のたびに近所の居酒屋で一緒に飲むぐらいの仲良しです。

 

大人たちが声を張り上げていた理由。

彼が立っていたのは、墨田区東向島の建物の2階の高さにある、今はなきレストラン「名月」の看板の上でした。

2階にある看板の上です。

当時僕ら小学生の間では「どれだけの高さから飛び降りて無事でいられるか」というどこかの国の部族の成人の儀式のような、全く意味不明な度胸試しが流行していました。

そのため、あちこちで塀の上や2階建て程度の団地のフロアから飛び降りる子供が続出。

僕も近所の家の塀から飛び降りてヒザがアゴに直撃し、大怪我をしたのを覚えています。

Yくんは大人たちの怒号を尻目に、2階の看板から「おりゃ」っと飛び降りて着地。

スタスタと歩き去ったのを覚えています。

僕の目には、とてつもない怪物に見えたのです。

今でこそ普通に歳を重ねて結婚すらしていますが、当時を語る別の友だちの証言では

「最初の出会いは公園で一人でネズミを追いかけていた」

などと言うぐらい意味不明な奇行が目立った子供でした。

で、あれこれあって(また別の機会に書きます)

数年後には仲良くなり、公園などのフィールドで毎日のように遊ぶようになったのでした。

そして事件はおきました

公園

そんなある日のこと。

公園でみんなで野球をしていた時、Yくんがあるものに目をつけたのです。

それは、公園のベンチで寝転ぶホームレスのおじさんでした。

Yくんは言います。

「あいつにみんなで石を投げてやろうぜ!」

僕らはその恐ろしい非道な発明について、意味を理解できず、ただ立ち尽くしていると、Yくんはその辺に落ちている石を拾いながら、全力でホームレスめがけて投げ始めました。

ひどい時代です。

ホームレス=怠け者=石を投げて良い

というか、昭和のクソガキの民度の低さよ。

教育は大事ですね。

Yくんの投げた石の1つが、ベンチで寝ているホームレスの額に直撃しました。

コツン!(実際はガツン!)

ベンチから起き上がるホームレスのおじさんの額には血が滲んています。

やばい!

僕らが想像すると同時に、ホームレスのおっさんが怒鳴り声を上げて立ち上がりました。

逃げろ!

僕らは身の危険を感じると同時に公園の裏の細い出口から一目散に逃げ出しました。

ただひたすらに走り去る僕たち。

「捕まったら殺される!」

誰かが叫びました。

逃げて逃げて、ある程度まで来たところでみんなで顔を合わせます。

大丈夫か?

全員いるか?

あっ、いない!

あいつがいない!

僕らの中には、率先して石を投げていたあのYの姿がありませんでした。

「やばい、殺された」

それぐらいのビビリで、友達の死を本気で予想したのです。

どうしよう、ヤバイよ、どうしよう。

僕らは心臓がバクバクのまま歩いて、公園の正面入口にまわって様子をうかがいました。

「絶対にYは死んでいる」

そう確信しながら覗いた公園の中から、信じられない光景が飛び込んできました。

なぜか、石を投げられたホームレスと、その石を投げた犯人のYが一緒にベンチに座っているのです。

僕らは近づくことも出来ず、ただただ遠くからその様子を見ているだけでした。

後日、何をやっていたの? とYに尋ねると。

「あのおじさん、仕事がなくてホームレスやってるみたいだから、ちゃんと働いたほうがいいよって言ってあげてたんだよ」と。

どの口で言ってるんだよ。

いやいや、石を投げたのはお前だろ! と。

予想もしなかった出来事が

そんなトンチンカンなエピソードがあったのも記憶に薄れたある日。

僕らはあの公園でまた野球をやって遊んでおりました。

楽しく騒いでいたその時。

公園の入口から入ってきた大人が、僕らにニュッと近づいたのです。

あれ、だれだっけ、見たことある。

あっ!

ベンチに寝ている時、Yに石を投げられて流血したホームレスです。

僕らは「殺される!」と身構えておりました。

ただ、前回と違ったのは「スーツ姿だった」ということです。

ホームレスおじさんはツカツカと僕らに近づいて、ある少年に話しかけました。

そう、Yくんです。

状況を飲み込めずにいる立ち尽くす僕らの前で、ホームレスのおじさんはYに言いました。

「ありがとう、おじさんね、キミに言われて頑張って仕事を探したんだ、おかげでこうやって仕事を見つけて今働いてるんだよ」と。

これ、お礼だよ、と千円札をYの手に握らせました。

千円札

きっと、小さい子どもに言われた事が、とても心に響いたんだと思います。

だからこそ、おじさんは立ち直れた。

明日への一歩、その背中を押したのはYだったのです。

ってお前。

なんだかいい話に見えますが、そもそも石を投げようって率先して石を投げたのもYですし!

流血させたのもYですし!

今でもまあ、その話は酒の肴として僕らに語り継がれています。

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